読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゆらのふなびと

競プロ, Python, C++

♪カフカなる群青へ/幽閉サテライト ~不条理な世界に、自分だけの意味を与えるんだ!(4100文字)

歌詞 東方Vocal

 

生まれた意味すら用意してくれなかった、不条理な世界に対する確信。

それは「生まれた理由なんて 自分の意志で定められる」ということ――

 

今回は東方Vocal曲『カフカなる群青へ』の歌詞について考えてみたいと思います。

 

 

カフカなる群青へ/幽閉サテライト

 

原曲:有頂天変 ~ Wonderful Heaven

作詞:かませ虎

編曲:Iceon

歌:senya

 

生まれたことにすべて 人が求める

都合良い理由なんてあるのだろうか

 

望まれる価値ばかり考えすぎて

望むことのジレンマ 胸が痛いよ

 

だからこそ今変わらなければ

意中の儚さに負けず 目を逸らさずに行け

 

理性を強いられるから 君との駆け引きができる

望むことさえも 今は正義に思う

僕らは生まれた日から 唯一無二の思想家さ

怖けずに進め カフカなる群青へ

 

生まれたことにすべて 僕が求める

都合良い理由なんてないと悟った

 

君が持つ掴めない魅力に

負けたくない気持ち そして強くなると決めた

 

享楽に染まることさえ 安らぎの頂点だろう

至福と堕落は紙一重なんだろう

僕らは生まれた日から 唯一無二の思想家さ

怖けずに進め カフカなる群青へ

カフカなる群青へ

 

生まれた理由なんて 僕が望んだ

掛け替えのない意志で進めばいいんだ

 

生まれた理由?

 

 僕らの生まれた世界は不条理だ。自分で選んだわけでもないのに命を与えられ、名前、家族、出自、性別…すべて自分の意志のないままに決められてしまう。この段階で人は一人一人違っていて、それゆえに僕たちは「なぜ自分は自分なのか」という問いをせずにはいられない。

 しかしその問いに答えはない。自分の生まれた理由なんてもとから用意されているものではない。だから自分で見出していくしかない。それはとってもつらいことかもしれない。

 でも、「与えられていない」ということは、「自分で選べる」ということだ。もっといえば、「創り出す」ことだってできる。生まれた理由なんてものを探すことに苦労しなくても、自分で意味を見出していけばいいんだ。僕らは生まれたその瞬間から、生きる意味を自分で見出すことを許された「唯一無二の思想家」なんだ。だから、自分を信じて「怖じけずに進め」!

 

 

「”カフカなる” ”群青”」とは?

変身 (角川文庫)

 

 カフカと言えば『変身』。一応読んだことがある。朝目覚めたら蜘蛛になっていて、腐った食べ物が食べたくなり、家族にリンゴを投げつけられる――不条理だ。とってもとっても不条理だ。

 カフカなる群青へ』の「カフカ」とは、この「不条理」という意味を表しているんじゃないだろうか。目覚めたとき蜘蛛になっていたら、なぜ自分は蜘蛛になったのか、なぜ自分が蜘蛛になったのか、蜘蛛になった自分はどうしたらいいのか、と思うだろう。僕たちも同じだ。気づいた時には今の自分になっている。選んだわけでもない顔や家族を与えられている。そこにどんな必然性もないっていうのに、ただ無条件に与えられてしまう。

 不条理なのは生まれた時に与えられるものだけではない。現在や未来もだ。自分が望んだことがすべて叶う訳じゃない。むしろ叶わないことの方が多いかもしれない。世界で起こることが自分の予測や期待を裏切ることも多々あって、予想何てつきやしない。そんな不条理な世界。僕らはそこに投げ出されている。

 

 しかし、絶望ばかりではない。僕はむしろ、後半の「群青」という言葉を大事にしたい。なぜならこの色には「可能性に染まっていない」というイメージを感じられるからだ。

 「青春」にしろ「青二才」にしろ、「青」には「未熟」という意味がある。未熟と言うとイメージは悪いかもしれない。でも、不完全であるということは、その分「可能性がある」という意味でもある。青二才の時期をとっくに過ぎたやり手のビジネスマンは、人間として完成しているかもしれないが、もう可能性は少ない。一度道を選んである程度完成したら、大人になればなるほど一つの道から逸れることは難しくなるだろう。僕たち(生まれた理由をまだ見いだせずにいる人たち)は、言ってみれば、可能性に満ちている。

 

 だから、カフカなる群青』というのは、『不条理だけど、可能性に満ちた世界』ということなんだと思う。なんでなのかとか何が起こるのかとか全然わからないけど、その分、自分で選ぶことができる。意味が与えられていないということは、自分で見出せるということ。それはとっても不安なことだけど、勇気を持って踏み出せば、自分だけの意味を自分から付与できる。それこそ、「他ならぬ自分として生きる」ことだと言ってもいい。

 

生まれたことにすべて 人が求める

都合良い理由なんてあるのだろうか

 

  曲はこの問いかけで始まっていた。その答えを模索した結果は、2番の冒頭で与えられている。

 

生まれたことにすべて 僕が求める

都合良い理由なんてないと悟った

 

  「生まれた理由」が分かれば楽だった。その通りに生きればいいのだから。ただ与えられた勉強をしていればよかった学校生活のように。生きることにも答えが用意されていたらどんなにか楽だったろう。でもそんなものないんだ。僕を安心させてくれるものは、どこにもないんだ。

 ここから、次の答えへと割り切れるかどうか。

 

生まれた理由なんて 僕が望んだ

掛け替えのない意志で進めばいいんだ

 

 生まれた理由――そんなものは結局どこにもなかった。用意された答えなんて、生きることにはなかったんだ。じゃあどうするか。自分で作ればいい。「与えられていない」ということはその分「制約がない」、つまり「自由度が高い」ということだ。生きる意味なんてのは、自分がこうだと信じたものを支えに、ただひたすらに突き進んでいけばいいんだ。

 

  怖じけずに進め カフカなる群青へ!!

 

 

「不条理」にどう向き合うか?

  

望まれる価値ばかり考えすぎて

望むことのジレンマ 胸が痛いよ

 

 最初、このフレーズの意味がちんぷんかんぷんだった。「望まれる価値」っていうのは「望まれることの価値」なの?「望まれるような、価値あること」なの? 「望むことのジレンマ」って望むことと何が対立してるの? とか。でも、「不条理」というキーワードを据えると、この曲のただ恋をいい感じに歌っているようにしか聞こえなかったところが、意味を持って繋がってきた。そしてこの曲で「不条理」を体現しているのが「意中の儚さ」だ。

 「意中」という言葉は、それ自体では「心の中で思っていること」*1という意味でしかないが、随所に「君」と言うフレーズが出てくるのでここでは「意中の人」と解釈して話を進める。

 

 この曲の主人公は、どうやら誰かに想いを寄せているらしい。しかしその人は簡単に手が届く存在ではなく、自分の思い通りにはなる可能性はほとんど0と言っていいようだ。

 

望まれる価値ばかり考えすぎて

望むことのジレンマ 胸が痛いよ

 

 あの人に望まれたら。自分を見てくれたら……叶わぬこととは知っていても、”もし叶ったとしたら”どんなにいいことか。そうやって夢を見てしまうことはやめられなくて、だから結局、”望んでしまう”。実現することはないとわかっているのに。その”ジレンマ”に、主人公は苦しむ。自分がどんなに願っても、決して叶わないこともあるという「不条理」――

 

だからこそ今変わらなければ

意中の儚さに負けず 目を逸らさずに行け

 

 今の自分はその不条理に囚われている。そんな自分を、変えなければ。世界に失望するのではなく、不条理を「受け入れる」。それが主人公の決意だ。叶えられないこともあるというのは、消すことのできないこの世界の事実。だからそれを世界の一部として受け入れ、なお世界と向き合っていく。辛いことだけど、生きていくためには必要なこと。

 

君が持つ掴めない魅力に

負けたくない気持ち そして強くなると決めた

 

 いくら望んでも一緒にはなれない、「君」という存在。その魅力の余り、主人公は相手に対して一方的に望んでばかりだった。それはただ単に魅力に負けているだけだ。そんな弱い自分に終止符を打ち、僕は強くなるんだ。

 

 

 

 

 

僕らは生まれた日から 唯一無二の思想家さ

 

 生きる意味なんてのはそもそも、生まれたときから「自分が決めるもの」だったんだ。一人一人が、自分なりの意味を与えていけばいい。今はまだなくても、時間をかけて見出していけばいい。「自分とは何なのか」なんてわからなくても、生きる意味を”創る”んだったら誰にでも千差万別に答えがありうる。だから僕らは「唯一無二の”思想家”」なんだ。

 

怖じけずに進め カフカなる群青へ

 

 僕らの投げ出されている世界はとっても不安定で、不条理だ。勝手に僕らを生まれてこさせたくせに、生きる意味さえ用意しておいてくれなかった。でもそれは、無限の可能性が広がっていることの裏返しだ。望めばすべて叶うというわけでもないが、それを恐れることはない。自分なりの「理由」があれば、夢を目指した過程そのものにだって「意味」は生まれるはずだ。だから、

 

 

 

 

 

 怖じけずに進め

 

 カフカなる群青へ!!!

 

 

 

 

 

あとがき

 今まで物語の読み込みをずっとやってきましたが、今回は趣向を変えて歌詞を対象にしてみました。なんで歌詞かっていうと、

  1. 音楽(特に歌詞)をもっとちゃんと味わいたいから
  2. 物語よりも文脈が少ない分、違った面白さがあると思ったから
  3. 「いいな」と感じる言葉を自分の中に取り込みたいから

といった理由があります。ちなみに歌詞は自分でつっかえずに歌える程度に覚えきってから描いています。

 2はもちろん歌詞の難しさでもあって、今回は飲み込みきれなかった部分も多々ありました(たとえば「望むことさえも今は正義に思う」ってどういう意味なんだろう? とか)。でも1回歌詞として覚えていれば、今後引き出しが何かに引っかかることもあるのかなーと希望的観測をしたり。

 物語の書き方のスタイルも定まっていないのでいろいろ手を出すのも考え物ですが、そのうち週1くらいで歌詞もやっていきたいなと思います(覚える脳って普段あんまり使わないし!)

 

 それではー。

 

f:id:pakapa104:20140523035815j:plain

 

*1:広辞苑第5版