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『Rozen Maiden』 4巻 感想 ~自死にまで至った蒼星石のストイックさとは何物なのか。(4250文字)

Rozen Maiden新装版 4 (ヤングジャンプコミックス)

 

 蒼星石、君はどうしてそこまでストイックなんだ…。

 

 自分の不完全さを許容できず、ついには自死にまで至ってしまった蒼星石の生涯(?)を追ってみます。

 

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 ローゼンメイデンの7体のドールの中でも、唯一の双子である翠星石蒼星石。2人はいつも一緒に居たはずなのだが、このとき蒼星石はマスターである一葉(おじいさん)のもとに、翠星石は真紅たちのもとにいる。

 一葉がマスターとして求めたのは、ある女の殺害――心の庭師である翠星石蒼星石は、鋏と如雨露で人の心を生かすことも殺すこともできるのだ。翠星石は危険を感じ真紅たちのもとに助けを求めて逃げてきたのだが、翠星石はマスターのもとを離れなかった。

 ジュンがバラ屋敷の手掛かりを見つけたころ、蒼星石が突然ジュンの家に現れる。彼が消そうとしているのは女性の木なのか?と訊かれ、蒼星石は答える。

 

 「でも… マスターが消し去りたいものは 別にある…

 

君は… わからない? 翠星石……
 
鏡と向かい合ったように
 
半身という影に縛られる
 
世界はどっちに向いている?
 
時計はどっちに回っている?
 
自分はどこに立っている?
 
……僕には… マスターの気持ちが分かる
 
だから… 彼を守らなくてはいけない
 
翠星石は…いつも蒼星石と一緒にいたいと…思ってます
 
蒼星石も 同じ気持ちじゃなかったですか?」
 
君と僕は同じじゃない 翠星石
 
そんな君だから僕は…
 
僕は君とでも闘える 他の誰とでも
 
マスターのために

 

 蒼星石は非常にストイックなやつだ。「マスターを守りたい」「マスターのために」――そこにドールとしての使命を見出しているとも思える。しかし、蒼星石が人殺しを命じられてまでこのマスターに拘る根底には、深い「共感」があった。

 一葉には双子の弟・二葉がいた。彼が殺したかった女性というのは、その二葉と結婚した女性だ。一葉は二葉を傍に置いておきたかったが、二葉は結婚後海外に行ってしまう。あの女は兄弟の幸せを引き裂いた! 二葉が死んだ後もあいつはのうのうと別の男と生きている! そんな恨みが彼に殺意を湧き立たせた。

 もちろん蒼星石は、そんな単純な怨嗟だけで人殺しを請け負うようなドールではない。彼の共感とは、マスターも自分も、「双子=”自分のもう半分”という存在から逃げられずにいる」ということ。自分だけでは完全になれない。双子とセットでやっと一人前。それゆえ一葉は依存に走った。蒼星石は自分から依存こそしなかったが、それでも「自分一人で完全にはなれない」という事実に耐えられなかった。「僕は君と”同じ”じゃない」というのは、「二人で一人」ではなく「一人で一人」になりたいという蒼星石の諦めきれない気持ちだったんじゃないだろうか。

 

 舞台は一葉の夢の世界に移る。そこで真紅たちは、一葉の記憶を目の当たりにする。

 

 「お前は俺の半身… 一緒でなければダメなんだ

 
僕のそばにいてくれ」
 
それは違う…兄さん 僕らは別々だ
 
僕には僕の幸せがある
 
それが彼女なんだ」
 
「行くな… お前が居なければ 僕は不完全になってしまう…!」
 
――一葉・二葉

 

 一葉は依存に走った。こうやって外に頼るアイデンティティというのは非常に怖い。相手がいなくなった瞬間、自分という存在が揺らいでしまう。しかもそれは相手を自分の都合で縛り付けることでもある。しかし二葉の言うように「僕らは別々だ」。それぞれのやりたいことがあって、それぞれの幸せがある。その違いを尊重しなければ、人といい関係を築くなんていうことはありえっこない。

 
 二葉は女性と海外で暮らすはずだった。しかし彼らの乗った船は事故に遭う。女性だけが生き残り、二葉は帰らぬ人となった。その事実を受け入れられない一葉が選んだのは――
 
死んだのは…兄の一葉です…
 
彼は双子の僕の名を騙り 船に乗りました」
 
≪死んだのは 一葉(私)――…≫
 
「……私は どうしても二葉の死を認めたくなかった…
 
だから… 代わりに私が二葉となって 生き続けることを選んだ
 
半身を失い… 自分自身も失った
 
私の人生は あの日に捕らえられたまま…
 
抜け殻のようなものだ
 
――一葉
 
 二葉をなくしてなお、二葉に依存し続けることを選んだ一葉。本当に脆い。しかしその卑しさは、女性への殺意の裏に隠されたまま、まだ彼自身には見えていない。
 
 蒼星石は既に女性の心の樹を見つけていた。その樹を破壊すれば、現実の女性も殺すことができる。
 
「僕ら双子のドールは いつも一緒だったね
 
でも…!」

 

 蒼星石の決意は固い。しかし翠星石も、気持ちを奮い立たせて細い如雨露で立ち向かう。

 

「だめえっ…!

 
この老樹は ずっと一生懸命生きて来たです
 
傷つけるなんて誰にも許されない!


いくら蒼星石でも これ以上は許さんですよ!
 
それでもやる気なら 翠星石ごと斬るです…!!

 

 翠星石の捨て身の説得。鋏を持った相手を正面から抱きしめるんだからすごい。泣きそうになりながらも必死で止めてくる翠星石を見て、蒼星石は何か悟ったような表情をする。

 

「――君は いつだってそうだ…

 
人見知りで怖がりで… すぐ僕の後ろに隠れてしまうくせに
 
二人で歩きだす時 迷わず先に立つのはいつも君だった
 
強く僕の腕を引いて…」
 
(僕らは二人で一人
 
――でも
 
君はちゃんともう
 
”一人”――)
 
 
僕は君を断ち切る
 
僕が僕自身になるために
 
――蒼星石

 

 「僕が僕自身になる」――その願いはきっと、もとから叶いっこないんだろう。双子として生まれたという事実は自分から切り離せないもの。双子でなくったって、人は誰もが補い合いながら生きてる。それでも蒼星石は納得することができなかった。自分の不完全さに。

 蒼星石はたぶん、いつも自分の手を引く翠星石の背中を見ながら、一人苦しんでいたんじゃないかな。「僕は結局、ひとりじゃ何もできない…」って。翠星石はそんなの気にしないタイプだ。泣きたいときに泣いて、進みたいときに進んで…。いい意味での「気楽さ」があった。蒼星石にはそれがなかったんだ。どこまでもストイックだった。自分を見つめすぎた。だからいろいろ、考えてしまったんだ。

 双子って、補い合うもの。でも蒼星石の意識は「補われている」だったんじゃないか。自分だって翠星石にとって大切な存在だったろうに、自分が助けられる方にばかり目が行ってしまう。ストイックになりすぎると、自分の悪いところばっかり見えて、自分を必要としてくれる人のまなざしが見えなくなってしまうんだなあ…と思ったり。

 ここでの「断ち切る」という言葉が何を表すのかは、今となってはわからない。翠星石を切る覚悟をしたのか、それとも――

 

 そのとき、一葉の記憶が突然揺さぶられ、彼は今まで見えていなかった事実に気づく。蒼星石も、それに呼応する。

 

「ようやく…わかった

 
縛られていたのは私だけだったのだ…
 
私が殺してしまいたかったのは 彼女でも二葉でもない
 
もう一人の私…
 
二葉の姿を借りて私の心をつなぎとめる… 私自身の影…!
 
 
「マスター… それが貴方の 本当の望みなの…?
 
僕も 同じだった
 
半身なんかじゃない 本当の自分自身になりたくて
 
もがいて あがいて
 
そうして自分を探すあまり
 
気づけば自分自身の影に がんじがらめに縛られていた
 
だから僕は貴方の望みを叶えてあげたかったんだ
 
そうする事で 僕自身も抜け出せる気がして
 
 
――それで貴方が解き放たれるのなら
 
僕は 叶えたい…!
 
――一葉・蒼星石
 
 「半身なんかじゃない 本当の自分自身になりたくて」…この言葉が、ストイックな蒼星石の悲哀をよく表している。「本当の自分自身」? そんなものないのに…どうして求めてしまったの…。「誰も完全にはなれない」と、なぜ妥協することができなかったの…!
 そして蒼星石は、マスターの夢の世界を叩き割る。それはドールにとって致命的な行為――ドールはマスターの心から力を得ている。その世界を壊すのは、自分自身を壊すのと同じことだ。
 
 落ちてゆく蒼星石を受け止めた翠星石は、いつものように泣いていた。
 
「また…泣いてるの…?
 
君の泣き顔は…
 
僕の… 鏡の素顔を見るようで…
 
 
大嫌いだった…
 
  蒼星石は、自分の弱さを許容することができなかったんだ…。だから一人で完成した「本当の自分自身」なんてものを求めてしまうし、その結果がこれ…どうしてそこまで自分に厳しいんだよ!!
 
「……マスター
 
僕は知ってた
 
貴方の樹は 少し枯れかけていた
 
けど
 
樹は朽ちていない
 
美しい樹を…
 
貴方はちゃんと持ってたんだ…
 
貴方も…翠星石も… 一人で歩ける…
 
強さをもう…ちゃんと持ってる

 

 お前だって…ちょっとでいいから自分のこと許してやれば、歩いて行けただろうよ。翠星石と、他のドールたちと一緒にさ…。行き過ぎたストイックさは身を滅ぼすよね…。人にこんなに優しいのに、自分には優しくなれなかったんだ…。
 
「大嫌い…だけ…ど…
 
誰より…
 
 
大…好…… だ…よ…」

 

 それが翠星石の聴いた、最後の言葉でした…。

 

 

 

 

 

あとがき

  ローゼンメイデンは新旧2シリーズありますが、今回取り上げたのは旧シリーズの第4巻です。アニメシリーズから入って気に入ってしまったので、初めてマンガというものを自分で買いました。なんだかこの物語には、とても優しいものが根底にあるような気がしていて…。今回は取り上げませんでしたが、「ジャンクなんてどこにもいない」「呼んでくれる人の声に気づきさえすれば…」「過去なんか幻。そんなのよりもっと大事な今があるですよ!」とかとか。書きたいことがたくさんあります。

 

 一度読んでしまっていたので、あまりゆっくりは読めませんでした…やっぱり新鮮さがないとどうしてもスピードが速くなってしまう。ざっくりとしか読めなくなります。マンガは物語を読み込むのにはいいツールだなと思っているのですが、アニメを見た後に読むのであっても一回性は大事にした方がよさそうです。

  ちなみに最後から2つめのセリフの、「一人で歩ける強さ」って言う言葉は結構気になる。蒼星石のスタンツは厳しすぎるけど、真紅がジュンに求めているのもこの姿勢だ。雛苺に足りなかったものでもある。これからどう描かれていくのか。

 

 書いているときは「こんなんでいいのかな…」とか思ってても、読み返してみるとなんかいいような気がしてしまう…良いことなのか悪いことなのか。

 

 ではでは。