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ゆらのふなびと

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『監視官 常守朱』 3,4巻 感想 2

 

『監視官』 常守朱 3,4巻 感想~『確信』のない世界。そこはきっととてもさみしい - ゆらのふなびと

 

 上の感想では、「シビュラは思考を奪う→答えのない問いを考えなくなる→不安定な世界を生きる『確信』がなくなる」という話をしました。今回は、それ以外の部分についてこまごま書いていきます。

 

トラウマゆえのストイックさ

 

「何のために監視官と執行官の区分けがあると思う? 健常な人間が犯罪捜査でPSYCHO-PASSを曇らせるリスクを回避するためだ!」

 

「二度と社会に復帰出来ない潜在犯を身代わりに立てているからこそ 君は自分の心を守りながら職務を遂行できるんだ!」

 

――宜野座伸元

 

 父親と狡噛、二人の「監視官→執行官」ケースを間近で見ている伸元。しかも狡噛の場合は、父親の一件で多少警戒していたにもかかわらず、自分が同僚という立場にあったにもかかわらず、止めることができなかった。そういう背景があるからこそ、彼は監視官と執行官の関係についてドライだ。執行官が「刑事の感」でリスクある行動をすることを許さない。犯罪者の思考を理解すれば自身の犯罪係数も上がる(これは父親のケースで間近にわかっている分実感が深いんだろう)から、監視官は執行官とは距離を置くべき。「チームワーク? ふざけるな。」そういうスタイル。

 

 「…これで狡噛が死ぬ羽目になれば… 常守監視官 全ては君の監督責任だ」

 

「君がちゃんと狡噛をコントロールしていれば こんな事態にはならなかったんだ」

 

 

「……どうだ? 自らの無能で人が死ぬ気分は」

 

――宜野座伸元

 

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 さっきはこんなに強気だった朱ちゃんも、

 

 

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 さすがにこの台詞にはこんな顔です。

 

 

 トラウマを持つ人間はどうしても臆病になってしまう。それは避けられない。自分が傷つきたくないが故に必死に人を制止する。心を鬼にしてでも。

 

 単に「自分が傷つきたくないが故に」なのかな? それとも「相手に自分と同じ苦しみを味わってほしくない」ってのもある? だとしてもそれは押し付けみたいなものだけどなー。

 

 

槙島はなぜ銃を投げ渡せたか?

 

「……そもそも何をもって犯罪と定義するんだ? 君が手にしたその銃……ドミネーターを司るシビュラシステムが決めるのか?」

 

「だがその判定には人の意志が介在しない 君たちは一体何を基準に善と悪を選り分けているんだろうね?」

 

 

 

「…君にも問うてみるとしよう 刑事としての判断と行動を」

 

――槙島聖護

 

 槙島が朱の友人ゆきを人質にとり、朱に「自らの判断」を迫るシーン。槙島はドミネーターが効かない免罪者体質。そこで彼は朱に、自分が持っていた本物の銃を渡す。「殺す気で狙え」と。

 

僕を裁ける者がいるとしたらそれはーー

 

 

 

自らの意志で人殺しになれる者だけさ

 

 槙島という、「シビュラで測れない」存在の登場。これは善悪の判断さえシステムにまかせっきりにしてしまった人々へのアンチテーゼであり、それゆえ槙島と対峙する者には、システム=世間の倫理を超越した、自分の正義を実行することが求められる。要は「自分で裁く」存在が必要なのだ。

 

 朱は震える手、目も開けずに銃を撃つ。そして……外す。

 

……残念だ

 

とても残念だよ 常守朱監視官

 

 

君は僕を失望させた

 

だから

 

罰を与えなくてはならない

 

 そして朱の目の前でゆきの喉を掻っ切る。

 

 この時の槙島の表情は決して道化のような感じではなくて、「残念だ」という言葉も真剣に言っているように思えた。そこで疑問なのが、「だったらなぜ銃を渡せたの?」ということ。

 

 そりゃあ槙島ほど頭のいい人だったら、今の朱には撃てない、とかいうことも分かるのかもしれないけど、仮にそれが確信できなかったとしたら……

 

 

 槙島は殺されてもいいと思ってたんじゃないか?

 

 

 最期に目の前で「人の魂の輝き」を見れるんだったら。朱が自分の意志で人殺しとなることを選び、シビュラに従属する家畜存在とは違うやつもいるんだということを目の当たりにできたら。

 

 槙島は自分の犯罪係数が上がらないことを「不思議に思っていた」。皆が「正常に」裁かれるその尺度で、自分だけ「正常に裁かれなかった」

 

 全社会が寄って立つ尺度から、自分だけ仲間外れにされているというのは、非常に大きな疎外感だろう。自分はこの社会で異質な存在なんだ。僕だけ見放されているんだ――。

 

 槙島は、誰かに「間違っている」と言ってほしかったのかもしれない。彼が狡噛に惹きつけられたのは、「狡噛なら自分を裁いてくれるんじゃないか」という思いがあったのかもしれない。

 

 槙島がやっていることは、「革命」ではない。なぜなら今の体制を崩したその先の理想を掲げていないからだ。彼にあるのはただ「疑問」のみ。

 

当たり前のことが当たり前に行われる世界 

 

…僕はそういうのが好きなだけでね

 

 人々が自分の意志をなくし、全ての選択をシビュラに委ねていることへの違和感。彼はその疑問をひたすらせかいにたいしぶつけていくだけだ。

 

 でもこれってすごく無責任だ。言いたいことを言うだけ言って、人も社会もめちゃめちゃにして、あとのことは何にも知らない、って。まるで小さな子供が、自分に構ってほしくていたずらをするかのよう。

 

 朱は今ある姿を肯定して、それをあるべき姿に擦り合わせていこうっていうしそうなわけで……この点では朱に軍配を上げたい。

 

 

 

 (「殺されても良いと思ってた」ってのは突飛だけど、「疎外感」っていうのは外れてないんじゃないか?)

 

 

 

 

 5巻は8月発売予定とのこと。今から楽しみ。でもその前にノベライズ版を買うかも。